2019年7月
ホンダX4LDを試乗
先日依頼を頂いたホンダX4LDの仕様変更が無事に終わり、試乗し納車いたしました。
リアはFGのリザーブタンク付きのツインショックFSM11pr36を、車高調整を省き製作の容易さと価格を抑えることを同時に達成しました。
フロントフォークは減衰調整式に改め、しかも右伸び/左圧でイニシャルアジャスターも備えたフルアジャスタブルです。プレミアムラインのオーバーホールに基本となるSGCF4P(当社独自のフルアジャスタブル・カートリッジ加工)の作業です。SGCF4Pもスプリングとトップアウトスプリングの交換、部品研磨、減衰特性のさらなる向上を目指すとその価格は青天井となりますが、今回作業したベーシックでお客様は充分に満足いただけました。
試乗の前に跨がり基本設定を行います。フロントの減衰を左右とも1/4を抜き、リアのイニシャルを3mm強め、空気圧を調整し走り出しました。パッと乗ってエンジン特性の楽しさに気づきます。特にキャブとインジェクションの差を考えたことはありませんが、現代の進んだエンジンマネジメントを持ってしても、違いがあるように思います。アニメで言えば昔のセル画と現代のデジタルデータの様な差を感じます。キャブは輪郭が曖昧で、デジタル制御は奥行きのない平板な印象です。そのキャブの良さと充分な低速トルクのおかげで、車体が軽く感じます。
フロントフォークのスプリングは純正をそのまま使い、イニシャル調整で合わせてあり、油面は純正よりも10mm下げの140mmにしました。減衰特性はSC54で得た詳細を元に少し動かす設定です。これはなぜかと言えばキャスターが30度以上あり、その様な車両は横倒しの分だけ摩擦抵抗も大きく、少し動かし気味に設定しなければなりません。
リアのFGはSC54をベースに少し内部変更を行い、バネを選びしっかりとしたエア抜きで良い動きを出しました。
最近乗ったバイクの中でもかなり上位の楽しさでした。機会があればまた改造したいバイクです。今回は税込総額で43万円ほどかかりましたが、とても面白くなりました。私も楽しく乗らせて頂けて良かったです。
フロントフォーク改造が続く
この一週間はずっとフロントフォークの改造を続けております。
以前からの懸案だったShowaのBPFを改造しました。このフォークの問題点は①構造上、油面調整幅が極めて限定的 ②コンプレッションアジャスターの調整方式 ③摩擦部品が多い(点数よりも面積が広いとも言える) ④トップアウトスプリングの定数
これら4点を一つ一つ解消してゆきます。先ずは①に関しては作り直す部品が大掛かりになるため、ギリギリまで油面を下げ対応しました。
②は今はやりの右フォークを伸び、左フォークを圧の減衰調整にして問題解消を模索しましたが、カートリッジ構造が従来とは違うため諦めました。そこで調整方法の根本的な問題点を検証し、問題点は解消できなければその長所をどのように活かすかを考え(イタリア語ではCambia idea )発想の転換を行い、シム組を大胆に変更してみました。
③これは、全ての作動部品を研磨し徹底的に抵抗を減らす、時間と忍耐の作業を繰り返し解消に近ずけました。
④この問題は簡単に解消できました。いつもの常用しているスプリングを用意し、それによるフォーク長の変化は旋盤で部品を作り対応できました。
これらの複合作業により、車体に取り付け押した感触は極めて普通のフロントフォークです。ここで素朴な疑問が浮かびます。ならば昔のフロントフォークに交換すれば良いのではないのか?です。それは簡単な解決手法ですが、BPFの可能性を試したいと常々考えており、お客様も賛同くださりこの改造を始めました。
BPFを使う利点は、大径ピストンによる安定した減衰の発生と、大径ピストン=大径シムの使用による細やかな動きを演出できる点に着眼していました。今回の改造でそれらが実践できたと、試乗前でも確信しています。
明日の試乗が楽しみです。
CBR250RR/MC51のフロントフォーク改造
旧知の方から、CBR250RRのフロントフォークをもて耐仕様に改造する案件を依頼いただきました。
スンナリとは進まず納期や仕上げの面で問題があった事を告白しつつ、お客様に迷惑をかけてしまったのは大きな反省点でした。それを踏まえ、顛末をお楽しみください。
最初はオーリンズのFGKカートリッジキットを使用予定でしたが、インナーチューブが細く、当然内径も小さくなるために使用できませんでした。そこで、旧来の25mmピストンを用いてNIX(オーリンズの呼び方)構造へ改造し、取り付けを可能にしました。
そうはいっても簡単には付けられません。右フォークはスプリングだけしかないので、カートリッジを固定する方法がありませんし、左フォークはエンドのボルトがあるとはいえ、オーリンズはそのような仕組みではないためこちらも一筋縄では進みません。
両フォークとも、カートリッジを加工しアダプタを製作する事で取り付けられました。インナーの内径とカートリッジの外径はかなり危うい寸法ですが、なんとかオイルの流れを妨げないギリギリの数字で一安心です。
トップキャップもはまりません。これはもう途方にくれるしかない・・・とはならず、採寸し寸法を検討し、なんとかなる(心の中では映画ラピュタの中盤で、ドーラがゴリアテに追いつけると算盤を弾いた時の「なんとかなりそうだ!」っと叫びました)と判断し、絵を描いて製作に取り掛かりました。慣れると一つ1時間程度で仕上がります。
ここで思いついたのは、オリジナルのフロントフォークトップキャップを製作する事です。フロントフォーク交換は非常に高価なため、トップキャップを交換し格好良く、更にはノーマルのフォークではない事も主張出来るのではないかと期待しています。
シム組はNIXとしては初めて使うピストン、車両であったため中々答えは見つかりません。手持ちのデータと経験を基にして、ある程度の処で賭けに出るしか決着しないので、最後は清水の舞台から飛び降りる覚悟で組み付けました。
今日の朝、茂木へ納品しそのまま走行についていましたが、細かい問題点はあるものの素性は良さそうなので、今後はダイアルがキツ目なのを解消するためシム組で減衰を強め、スプリング交換や油面調整を楽にする構造変更を進めます。
56レーシングとは違ったティームと仕事をすると、ライダーのコメント、メカニックの求める要件、セットアップの進め方の違い等を学ぶ良い機会となりました。そんな事を考えながら1コーナーからピットに戻る道すがら、なんとKISSレーシングの桜井芽依さんに会いました。彼女はBMWでもて耐に出走するそうで、当然といえば当然ですが久しぶりに会えたので就職の事や近況を話せたため、良い時間を過ごせました。
帰路は途方もない眠気に襲われ、1時間ほど車中で仮眠を取ってから帰りました。
Mazda3 に見惚れる
二週間ほど前の雨が降る日曜日。納品のため柏から埼玉県へ向け16号線を走っていまいした。
岩槻を過ぎたあたりで遠くに白く格好良い車を認め、どこの欧州車かと思い近づくとマツダ3(旧アクセラ)でした。エンブレムを確認する前の全体の形が認識できた瞬間、その洗練具合に驚きました。
魂動デザインはCX-5が本などで公表された段階で、これからのマツダはすごい事になると確信を持ちました。事実、その後の発売された車はどれも人気のようです。一部報道では販売台数が伸びない点を指摘し、外観の問題点を取り上げていましたが、現在マツダの車を購入している層は、それを気にしていないと思います。
2015年の数字ですが売り上げ3兆円(営業利益2000億円を越す)でした。CX-5販売前の2012年は売り上げ2兆円(営業利益380億円の赤字)でした。売り上げは1.5倍なのに、利益はマイナスから2000億円以上のプラスです。これは驚くべき変化だと思います。
BMWが世界各国の2%をターゲットにしていたのを、販売量を増やす方向に舵を切り迷走しているのと比較し、今年発売されたマツダ3はよりマツダ好きを増やす方向に向かっていると私には感じられます。
現車を初めてみてからの二週間で思考をまとめましたが、あのデザイン(外観、理念、価格などを含む全て)は最大公約数の範囲からギリギリ外れるかどうかの際にあるように思います。あれ以上にエッジの効いたデザイン(繰り返しですが形だけを論じていません)では現段階として行き過ぎてしまい、顧客離れが発生するようにも思います。
先進性を確保しつつ量産メーカーとしてギリギリのラインに踏みとどまるデザインは驚嘆に値します。ぜひ一度試乗してみたい車です。
サスペンションの仕上げについても同様かと思います。つまり、乗り味の追求は革新と現状維持の合間で常に揺れ動き、振幅が大き過ぎればお客様からの信任を失うという意味です。
その点に留意しつつ、常にお客様を先導し驚かせつつも安心感を得られる車両作りが当社の目標です。
様々な作業
本日は様々な作業を行なっております。
VFR400R、NSR250SE、F650GSダカールのショーワモノサスを3セット形にして、油圧ジャッキの修理を部品製作しながら進め、この後は横須賀のお客様のもとへ納品と車両引き上げへ行ってきます。
NSRやVFRはガスの封入方式が面倒なので、蓋に加工をして簡単に入れられるようにすれば楽なのですが、純正の形を壊さないように技術開発を進め数年前からそのままの形を保ったままガス封入を行えるようにしました。
他のオーバーホール店でもそのような手法を見たことがあり、作業に精通すれば考えつく先は同じような形になると、妙に得心しました。これらのダンパーは少し特殊な部分もあるため、エア抜きにバキュームポンプを使うのは少々手間ですが、以前に製作したアダプターが大活躍し問題なく作業が進められました。
エア抜きが不充分な場合、機械で抜いている最中でも手触りでわかります。しっかりと抜けた瞬間は明らかに変化を感じ取れます。そのような仕上がりだと、乗っても即、体感可能です。しかもこれが長期間持続するのです。不充分なエア抜きでは乗り出してすぐに、ふわふわするしそれが早期に悪化します。これは色々な検証を重ね得た結果です。
一度しっかりとしたエア抜きの行われたオーバーホールを体感してみたい方は、ぜひ連絡ください。
'18 CB1100EX 試乗してみました。
こんにちは。お久し振りの梅山です。
本日は前後改造でお預かりしているCB1100EXに、手を入れる前の純正状態で試乗しました。
車体のクラシカルな雰囲気はとても素敵で、空冷エンジンに二本出しマフラー、前後18インチのスポークホイールなど大人の色気が出ています。
乗り味としては、車体の雰囲気には似合わず動きの大きいバイクと感じます。前後ともに減衰が足りず、バネ感が強く落ち着きがありません。
純正状態では、フロントはSDBVと呼ばれる昔ながらのフリーバルブにダンピング機能をつけた構造、リアはカシメサスペンションです。
エンジンの特性など車体の素性は良く、この雰囲気にあった乗り味を作り込んだら楽しそうでした。
段差を降りた時や、交差点を曲がった瞬間に笑みのこぼれるバイクを目指します。
フロントにはカートリッジ追加、リアにはFGのツインショックを考えています。
他にもマフラーやシート、アクスルシャフトの交換も承り、楽しい仕様となりそうです。
構造が面白い
多種多様な品をオーバーホールするのが、当社の強みかもしれません。理由は単純で、依頼を断っていたのでは商売にならない弱小企業だからです。ただ、そのおかげで大きな経験を得られました。
現代の二輪車はかなりの割合でシングルチューブ(モノチューブ)のリアショック を採用しています。ツインチューブはFGのFFX,オーリンズのTTxに代表される一部のレース用だけの専売特許と思われる面もあるかもしれませんが、実はツインチューブこそダンパー黎明期に活躍したスタンダードと言える構造です。
ツインチューブの構造、問題点はさておき、写真のワークスパフォーマンスはその実ツインチューブです。これの面白い点はFFX等は調整部分にピストンを用意し積層シムにより動きを作り出します。2/3分の二乗型です。
ですがこのワークスパフォーマンスの調整部分はピストンやシムは持っておらず、弁と環状隙間調整の機構だけです。そのままではダンパー速度に応じて過剰な減衰が発生するのを、ロッド先端についたピストンに逃がし弁を設け、過減衰を防ぎます。この機構はごく最近のモトクロス用オーリンズTTxに採用されているはずです。はずというのは、ダンパーの説明文を読む限りで私が推察したからです。詳細は不明ですが大体は想像通りだと思います。
現代ツインチューブではムーヴィングピストンは穴を持ちませんが、振り返れば現代ツインチューブの原点、ザックスのダンパーは減衰調整部分は調整だけで、動くピストンにシムが乗り、普通のダンパーの様な形をしていました。それが時間を経るにつれ変化を重ね、また原点に戻ってきた感があります。
ですがこれはモトクロスという、かなりダンパー速度の幅が大きな使用環境において効果的で、街乗りではそれほどの必要性はなさそうです。
このように、多岐にわたる品を分解してきたお陰で外観や説明文でもその構造をかなりの部分、透視するかのように見透かす事ができるようになりました。
私の愛機たるBT1100はツインチューブのFFXを採用しています。素晴らしい作動性を発揮するこのショックに、ムーヴィングピストンは積層シム型を使い、新たな乗り味を模索できないかと思案しております。
また一つ上の突き抜けた乗り味を求め、時間の許す限り試してみようと思います。
最後に宣伝ですが、リザーブタンク付きワークスパフォーマンスは、ブラダが割れてしまうため自社製のアダプタと国産ブラダを用いて、長期間の使用に耐えられるように改造しています。
ロッド再メッキ、ブラダ交換、上下ブッシュの削り出し製作などでおおよそ10〜12万円となります。さらなる改造提案も可能なため、ご用の方は問い合わせください。
バイクリフトの油圧ジャッキ
みなさまこんにちは。
今日の題材はバイクリフトに使う油圧ジャッキです。
当社は以前にこの部品修理を十本程度ですが、作業経験がありました。直ったり直らなかったりで、お客様にも迷惑をかけておりましたが、昨日から作業を始めた品に取り組んでいる最中、思い立つことがあり部品を作り試したところ、上手に行きました。
これらの産業用油圧機器はかなり荒っぽい作りで、バイクや車のダンパーばかり観てきた身としては、心配になるほどです。しかしそこは考えを改め、使い方や費用の面から必要十分の作りだと割り切り、修理に取り組むように変えました。
そのように思考を変えた直後から、色々と多くの着想を得られるようになり、問題の解決策が見えてきました。
乗っている時は勢いを持って事に当たるほうが良いと考え、続けて別のジャッキに取り掛かりこちらも問題が解消したようです。これらの機械は前述の通り、緻密に仕上げられた製品ではないため、それに合う物の選び方、組み立て方などで仕上げてゆく必要があるようです。
プレスで押す写真は耐圧検査の様子で、強く押し込みピストンロッドが押し戻されないかを試験しています。
この後もまだ2機、ジャッキを預かっているため早々に手がけて行きます。
オーバーホール料金は内容により上下しますが、通常は5〜10万円の範囲に収まると思います。
アルバイトの中村くん
当社のアルバイトだった矢作君の通った整備学校に通う、現在のアルバイト中村君です。
彼は白井市のミスタータイアマン白井店の跡取りなので、自営業の厳しさを思い知らせるために、日々きびしシゴキの中にあります。可愛がりと呼べる私の厳しい指導を物ともせず、笑顔で耐えております。
まだまだダンパーの分解には手を出せる水準ではありませんが、毎日バネ外し洗浄を繰り返し、ダンパーの基本的な構造を頭に叩き込ませております。
彼は走るのが好きで、サーキット走行も度々行っています。まだ大型の免許は持っていませんが、運転に慣れ私が認めた暁にはセッティングに対しても関わらせてみようかとも考えます。走るのが好きな人間は少数なので、有益な人材です。
私も壮年期の終盤に差し掛かり中年の足音が近づきつつある昨今、若い人たちの仕事を見るのが楽しくなってきました。多くの人と関わり仕事をするのはとても幸せな事だと思います。そう考えると、カミさんには少々退屈な生活を送らせているかも知れません。愛する妻の楽しめる生活を考えなければなりません。
中村君の他に、すでに2年も働いてくれている梅山君と、大学院の入試を控え当面アルバイトを休む金岡君もおります。三人三様で面白い人材なので、将来が楽しみです。
セイクレッドグランドの現状
今年に入ってから、車両預かりで大きく手を入れる仕事を多く依頼いただいております。
現在作業を待っているのはZX-10R、GSX-R1000、CB1300SF、CB1100EX、ZX-12R、GPZ900R、NSR250Rなどです。これにFGの依頼も多数いただいており、昨年とは依頼の内容が大きく様変わりしています。
私が考える深みのある楽しい乗り味を作る事に、賛同いただけるお客様がこんなにもいる事は望外の喜びです。
他にも、ダンパー単体でオーバーホール依頼をくださる方(お店)達も、仕上がりの良さを求め当社に仕事を頂いていると思います。その信頼を裏切らない様、社員とアルバイト含め頑張ってまいります。
天候が回復したら883Rの試乗セッティングを行い、それらに続く車両の評価を行いながらも、通常オーバーホールの品とFGの製作依頼をこなしてゆきます。今月は作業数も多く大変そうですが、お客様の喜ぶ様を想像し張り切って仕事をします。