2017年7月
ダンパー選びの助言
多くの業界にアドヴァイザーと呼ばれる職種や業務があるのに、サスペンション業界で社外品のダンパーを選ぶ際のアドヴァイザーを見聞きしなので、私が選ぶ時の基準を披露しようと思いました。
ダンパーの性能は全てが調和してこそ、持てる能力を発揮するため優先順位をつけるのは根本的に間違いかもしれませんが、それでもあえて選ぶなら以下の順番になります。
一 ばね定数 車両製造会社の値を参考にしますが、レース用に改造した場合に大幅に数字が変わる時もあります。しかしながら、あまりにかけ離れた値を採用しているようならば、選択肢から外します。
二 自由長 これはばね定数と連動します。基本的には純正値に準ずるのですが、純正比でイニシャルを抜いて乗り心地を優先し、自由長を伸ばし操縦性を担保することもあります。ただ、街乗りならば10mmも長くなるような状況はないので、あまりかけ離れた数字ならば、やはり選びません。当社で製作したヤマハ・YZF-R25は純正よりも10mm以上長い設定ですが、これはサーキット専用のためであり、街乗りであればもう少し穏やかな設定とします。
三 シリンダー内径=ピストン径 外観から正確な寸法は測りかねますが、ツインショックなら36mm。モノショックのシングルチューブなら46mmが基準となります。モトクロッサーなどは50mmもあり得ます。これは車におけるエンジンと同様に、スプリングに対し適当な寸法があります。小さすぎると小排気量エンジンのパワー特性と同じく、下か上のどちらかにしか合わないような、過敏な動きをみせます。逆に内径が大きすぎるとなかなか減衰が立ち上がらず、腰のある感触を得られません。ただ、このあたりはピストンのデザイン、シム組、オイルなど複雑な要因が絡み合うため一言で「大きければ良く、小さければ悪」とはなりません。
四 調整項目の多さ スプリングのイニシャル(プリロード)調整、ダンパー自由長、伸び減衰、圧減衰の順に重要度が決まると思っています。
五 そのほか、色々なメーカーが自社の優位性を謳っています。価格、機能、外観など決め手は人それぞれです。しかし、くる仕事を拒まずかなりのダンパーメーカーを分解した経験から、ある程度の判断はつきます。これからダンパーを交換しようと考えている方は、一度相談ください。純正の改良から社外品選びの参考基準を助言差し上げます。その際に当社でFGを選択頂ければ幸いです。
YZF-R6
ヤマハ・R6に使えるFGのトップエンドモデル、FFX31を製作しました。
FGでも設定はありますが、今回は在庫で取ったR25用を改造しました。ベースボディーだけを使い、他はかなり大幅な変更を施してあります。FFXもBMW・S1000RR、カワサキ・ZX-12R、ホンダ・グロム、CBR250RのJP仕様、CBR250RRモテ耐仕様、MVAgusta・F3、ヤマハ・R25など最近はかなりの数を造り実走しながら造り込んできたので、スプリングレートに対するシムの組み方や、部品製作の勘所などがわかってきました。
写真にあるよう、スプリングも実際に試して気に入らなければ付け替えて、更に実走を繰り返し最良を探します。今回は結局100Nmに落ち着きました。よくあるレートですが、やはり一番問題の無い硬さでした。好みで95~105Nmもありだと思います。それ以上は特殊な動きになりそうです。
定価は税抜き¥197,000です。脱着工賃と消費税別でこの価格は他社比較で高い部類ですが、一台一台に合わせ手組したうえで、実走セットも込みなので、お客様の好みも反映させやすく、きっと満足して頂けると思います。
言葉の定義
開発車両のCRM250AR・MD32のリアサスを分解しました。
購入時点で他社でオーバーホールしていると聞いていたので、どの様になっているのか楽しみに分解しました。特徴として良く表れるのは、ロッドの先端でピストンやシムを締結するナットを純正ではカシメて、絶対にナットが緩まないようにしています。ここの削り方が作業者ごとにかなり違います。当社は生爪を成形してロッドに傷がつかないようにしながら、旋盤で削ります。再利用する場合には、削り代を最小にして綺麗な仕上がりを目指しています。この写真のオーバーホールをしたショップは、大きめの旋盤を持っているとホームページでは謳っていますが、ナットの頭はグラインダで削るようです。そのままでは汚らしいので、手間をかけ研磨してありました。
次の特徴は、細かく伝えると自社の技術を公表することになる為、細部までは申し上げられませんが、組み立て手順により大きく変わってしまう部分があり、そこに関しては、深い考察の無い組み方でした。私自身も会社を始めて一年程度は同様の方法で組み立てていましたが、疑念を持ち違った手法に切り替えたところ、かなり乗り味が向上したので、現在は基本的に新たな方法を継続しています。
続いてはスプリングのアジャストリングナットを緩める際に分かる事ですが、グリスが塗布されていませんでした。オフロード車両の場合は特に汚れが付着しやすくなるので、ここは意見の割れる点ですが、当社としては最低限は塗るようにしています。アルミと鉄が擦れ合うのでそのままでは摩耗が心配だからです。
ブラダでオイルとガスを分離する構造上、オーバーホール後半年以上たっている点と乗った感触を考慮すると、オイル室に混入した気体の具合は写真の程度なら、少々多めに思えます。
アッパーマウントのベアリングは、スリーブ、ダストシール、ベアリング共に再使用されていました。この会社のホームページを見たところ、該当箇所は交換を望む場合、申請してくださいとありました。当社の場合は、部品設定がある、または交換可能な場合は見積もりに載せています。
結論を明記するのはあえて避けるとします。ただ、言葉の定義をしっかりしなければ、お客様は勘違いします。フルオーバーホールと銘打ち、交換部品の多さや作業の丁寧さ、機材の充実を強調しながらそれを扱うのは結局人間であり、作業者の技術水準に大きく左右されます。
当社の問題点は、オーバーホールとあるだけで、どの程度の交換部品がどのような技術で組まれているかを明示していない点かもしれません。皮肉で言うのではなく、アピール上手なのは素晴らしいと思うので、見習います。
オーバーホール後の印象ですが、動きが滑らかになったと同時に減衰が効いて、サスペンションが荷重に応じてしっかり留まるようになりました。やはり空気の混入する量が増えると、落ち着かないようです。それに合わせライディングのリズムも狂います。何だかおかしいと感じたら操縦技術でなく、サスペンションやタイア、車両に何らかの落ち度があるかもしれません。定期的な整備の重要性を再認識しました。
今回は辛口過ぎたかもしれません。他社批判は良くないと理解しているつもりですが、見たままを伝えるとこうなってしまいます。つまりは自分もしっかり作業しようと、自戒の意味も込めました。
BMW,F800ST納車
昨日、F800STを無事納車出来ました。
リアは実績のあるFGのFQE11とし、フロントは自社製バルブSGVFです。お客様の評価で、フロントはブレーキレバーの握り具合と、フォークの沈み込みが心地よく連動した、リニアな感触となり満足いただけました。
リアはスプリングレート、プリロード、伸び減衰、車高調整が可能です。プリロードと伸び減衰の調整でピッチングセンターをずらしながら様子を見て、良さそうなところで納車しました。伸び減衰の抜き差しでピッチングセンタを動かすだけで、乗り心地の大部分を調整できるため、他は変更せずにそこだけで好みを探るほうが、無駄なくセットアップできると伝えました。
一般にはバネ系と車高を決め、伸び、圧の順に減衰を変更するのが正しいと言われていますが、途中まではこちらでセットを終えているため、伸びから触るように提案しています。
フロントフォークのオーバーホールと、SGVF追加、リアのFG・FQE11で税込み¥199,800でした。
RZ250 4L3
川口のクオリティーワークス様の依頼で、ヤマハ・RZ250・4L3のリアサスペンションを製作しました。
FGのEQF11と呼ぶ、リザーブタンクを持たずに伸び、圧の減衰調整を可能にした、面白いモデルです。このダンパの構造はツインチューブ構造が理解できれば、簡単に理解できます。もっと分かりやすい例はカートリッジ式のフロントフォークです。これにフリーピストンを入れ、スプリングを外部に置けばEQFの完成です。
お手軽にフルアジャスタブルが手に入る反面、メインピストンの径が34mmとかなり小さく、そのためFGも街乗りからスポーツ走行程度を推奨しています。過去に自分のZX-9R(C型)に取り付けましたが、46mmピストンを持つFSM31との比較で少し荒い動きを感じました。そのためスプリングレートが低く、レバー比が小さく、したがって減衰も弱めの車種に向いています。今回のRZはレバー比はともかく、旧い車両のためそれほど大きな減衰を必要としないので、悪くないと考えます。
定価税別¥118,000です。日本に届いてから組み直しを行うため、納期は問い合わせください。
明るい兆し、でも転倒
CBR250Rのドリームカップに参加した桜井芽衣選手は転倒に終わりました。
昨年から調子を崩し、本人も回りも納得できない正直に言えば不甲斐ない時期を過ごしてきました。しかし、菅生の優勝から流れが変わり鈴鹿で2位となり、今回の筑波となりました。
今年からレースの現場は大槻に任せているため、走りを観るのは本番当日だけで流れも分かりませんでしたが、予選の走りは明確に良くなっていました。トップの幡多選手との差も少なく、走りを観る限りではほぼ同等と感じました。決勝でなぜ転倒したのかは話をする時間もなく分かりませんが、レース中は「転ばなければ優勝」とずっと思っていました。ティームのライダーがトップに立つと「この周回で終わってくれないかな・・・」といつも思います。
本音を言えば、埜口選手の安心してみて居られる感じ違い、無事に終わってくれと願っていたのですが、残念ながら転倒でした。
しかし予選、決勝と走りを観る限りは、精神面で崩れなければ、今後のレースは心配ないと思っています。
不思議の勝ち、GP3
野村監督が良く語る言葉に、「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」があります。もとは剣術の達人が綴った言葉の様です。
昨日のレースの走りを見る限り、GP3の埜口遥希君が圧倒的に強くみえました。予選でも色々試しているのが見え、余裕と言うより幅のある走りをしていました。半年ぶりに走りを観ましたが、明らかな成長を確認しました。決勝で団子になっても前にでる力は十分あると感じました。
同じクラスを走る松山拓磨選手は、前回の筑波選手権以来の走りを確認しました。こちらも明らかなレベルアップを果たしており、前回は10周目あたりから疲れが見え、切り返しではミスと応答遅れが著しく表面化していました。しかし、今回は若干その傾向は見えたものの、大きな失敗もなく、中団辺りから徐々に順位を上げ優勝を果たしました。
レースに関わるようになって強く感じるのは、どんなクラスでも勝つのは難しいという点です。勝った松山選手は実力以上の結果だと思いますが、着実にトップとの差を詰める中で、上位が転倒しトップに立ち、それを譲らなかった点は評価に値します。ケヴィン・シュワンツのワールドチャンピオンも「レイニーが負傷して手に入れたチャンピオンではなく、トップが不在になった時、その位置に居たかどうか」だとシュワンツ選手自身が語っていました。参戦2戦目でスルスルっと優勝を果たした松山選手には、こんなにあっさり勝つんだ・・・という不思議な感触を持ちつつも、そのポジションを譲らなかった実力に、中野監督が仰っていた言葉(時期が来たら言えるようになりますが、今は明かせません)が重なります。
反して、圧倒的な実力差を持った埜口選手は細かい経緯は省きつつも、転倒が問題になります。はっきり言って転ぶとは微塵も思っていませんでした。他車と接触と聞き納得しましたが、操作ミスで転んだとは到底考えられませんでした。一番の原因は昨年も同様の転倒を喫した事ですが、遅いライダーと絡んだからです。GP3で抜け出すのは難しいですが、それでもどこかで一歩引いて待つ場面が必要です。本人も中盤までは回りが落ち着いていなくて、危なっかしいので無理に前に出なかったと話していました。転倒した周回あたりから、埜口選手が引き離しにかかったように感じました。それに焦った他のライダーが落ち着きを無くして、走行ラインを塞いだのかもしれません。レースは不確定要素が多いので本人がいくら気を使っても、どうにもできない事もあると思います。そこは反省もせずスッパリ忘れて次戦のタレントカップに集中してい欲しいと思います。
そういえば、シュワンツ選手は「僕が無理な走りをして、レイニーがいつも引いてくれていた」と話していました。あんなに熱い走りをするレイニー選手はどこかで冷静だからこそ3連覇できたのかもしれません。