2017年6月
善悪の彼岸、パラダイムシフト
イタリア語の学習を熱心にしていたころ、イタリア映画をむさぼるように見ていました。その中で古い映画でしたがドイツの哲学者ニーチェの「善悪の彼岸」を基にした作品を見ました。イタリア語では「Al di la' del bene e del male」と言います。
善悪の彼岸を読んだことはありませんが、概要はキリスト教の観点から世界を見る事への脱却を説いているようです。
思想とは模範の上にあり、模範の下には哲学がある。つまりは善悪の彼岸とはパラダイムシフトの事と「自分勝手に」捉えています。紐解くとキリスト教の視点、仏教の視点、ユダヤ教の視点もあるし神道の視点もあります。この様に視点を「換え」れば世界観も変わります。キリスト教という宗教のパラダイムを換える事が真理探究には必要だったのではないでしょうか。
しかし、人間の思考は真理から発生したのではなく、思想から物事を見つめて行き、模範を通り、哲学・真理へと到達します。なぜ哲学を欲するのかと言えば、最も遠い場所に位置しているからかもしれません。逆に思想にとどまり思考を巡らせていては、堂々巡りを繰り返し本当の事にはたどりつかないと思います。
道路や橋脚、ライフラインと呼ばれる物が社会のインフラストラクチャーならば、思考の下部構造は哲学が相当します。
良いサスペンションを造りたいと思う時も、まったく同じ構造が当てはまります。ダンパーでは仕上げ精度を保証する機械加工、材料などが下部構造のインフラであり、その上に寸法をどうするか、どんな材料を用いるかと言う上部構造のスープラストラクチャーがあります。セッティングについても同様です。
昨日はダンパー開発の担当の方と短い時間でしたが、話をする機会を得、上記のような事を考えるに至りました。会話、出会い、経験に触発され思考が巡り、新しい発見があるのは嬉しいく思います。
KX85のKYB
東金のバイク店からKX85のリアサスペンションの依頼があり、分解しました。
アルミシリンダーのため、摩耗が進むとオイルが真っ黒になります。本当に墨汁と言った様相です。このダンパーは全ての消耗品が交換できます。気になるのは、自由長、ストローク長に対して伸び切時の勘合長です。もっと長い方がガタも少なく動き出しも滑らかになりますが、自由長は制約がありその中でストローク長を多く取ろうとすると、自ずと各部の寸法が決まります。
この個体は以前にオーバーホールを行った形跡がありました。他人の仕事を見ると思うことは多々ありますが、見られて恥ずかしくなく、むしろ丁寧で凄いと思われるような作業が出来るように、心がけます。
SUS303と304
俗に言う18-8ステンレスの加工についてです。
普段のカラー制作には303を使っていたので、試しに304で冶具を製作してみました。やはり切削性が悪く、条件を整えなければキリコが帯となってつながり、かなり危険です。今回はたまたまキリコが綺麗に外部へ排出されたため、問題にはなりませんでしたが、場合によっては加工対象に絡み傷がつくため要注意です。そこで、バイトを変え切削条件も変更して綺麗なキリコが出るよに変更しました。
汎用旋盤は送りを速くすると、キリコが吹っ飛んでくるので結構怖いです。
アルミも同様なのですが、ステンの切削で1mmも切り込むと熱が凄く、飛んできたキリコで悲惨な目に合うため、今は0.5mmを基準にしています。別件ですが、25mm角のバイトで交換チップのNRは0.4が最小なのでしょうか。小型旋盤用の12mm角のバイトにNR0.2のチップがあり、それを特定の切削に用いていますが、かなり良く削れます。Rが小さいので切削抵抗が小さく、硬い品を削るときにはこちらが有利でした。チップの材質も影響するとは思いますが、今後も研究してみようと思います。
TZMのYECを更に改造
昨年あたりから、TZMのYECに関する依頼が多く、ありがたい限りです。
今回の依頼は街乗りとサーキットで使うようです。予算よりも内容を重視した依頼でしたから、かなりの改造を施しました。
ロッドはSGSA14へ交換・拡大し、それに伴いガイドブッシュもオイル室側へ移しフリクションの低減を狙います。オイルシールはFGを流用し、エア抜き用の特殊ボルトもFGを使いました。ピストンリングはいつもの金属バンドですが、純正とは少し変えて取り付けた事で、滑らかな動きを狙います。
アッパーマウントの焼き付けブッシュは、ドライベアリングとステンレスカラーを合わせ、ここでも作動性を上げるように作り直しました。
抵抗をなるべく排除して、動くようになった分はダンパーで抑えるのが基本だと考えます。焼き付けブッシュの効果も分かりますが、二輪車では絶対的な優位性はないと思います。ロッドの軸受をオイル室内と外へ置く場合で、どれほどの差が出るかを当社では未だ検証していませんが、製作する場合に二つの大きな理由から、可能な限りオイル室側へ置くようにしています。