2017年3月
NSF250Rの前後ダンパー
埜口遥希さんの乗る、NSFの前後ダンパーが作業を終えました。
簡単な点検を行い、各部の辺りを考慮しながらの組み作業です。フロントフォークのインナーチューブは当たりがきつくなってきたので、そろそろ交換を考えます。リアダンパの内部はそれほどの摩耗は見られませんでした。アウターチューブ内壁の摩耗も見られません。
リアダンパーのエア抜きは通常よりもしっかりと行います。レース用はエア噛みの問題が大きくなるため、神経質です。ブラダ構造のため、使用時間が多くなるとガスがオイル室へ移動してしまい、写真のようにかなり泡立ってしまいます。
フロントの構造は一般的な作りなので、エア抜きは油面を整えるのが目的です。これは難しいというよりも、時間を掛ける必要があります。
乗車位置と乗り心地
散々語っているピッチングの問題についてです。
人の乗る位置と、乗り心地はかなり密接にかかわります。それはバスに乗るとよく分かります。普段は車酔いを起こさないのに、バスに乗ると酔いを起こすことは度々あると思います。これは、前端と後端が更に症状を悪化させる要素を多く持ちます。それは、前輪と後輪の間にピッチングセンタ(回転軸)があり、それに近いほど上下動を感じないで済むため、乗り心地は良くなります。
ホイールベースの外に座ると、てこの原理で揺れが減衰されずに増幅して、乗員へ伝わります。それが脳を大きく揺さぶりバス酔いを生むと考えます。
通勤中や移動中に多くの車を眺め、ホイールベースと乗車位置を確認していますが、乗用車のほとんどは運転席をホイールベースの中心近く、やや前方辺りに置いています。トラックやバンは積載性を考えより前方へ座らせる必要があり、前輪の真上が多いようです。ふと眺めると、最近の軽自動車とキャラバンやハイエースのホイールベースが同じくらいに見えたので、確認してみました。
当社のトランポは4代目キャラバンですが、ホイールベースは2415mmです。正直乗り心地は良くありません。車格で考えると短いホイールベースに、前輪真上の乗車位置が影響しています。
妻の移動用にスズキ・パレットを買い、乗り心地を確認しましたが、とても乗り心地が良く快適でした。ホイールベースは軽自動車なのに、2400mmです。着座位置はホイールベース中心よりやや前方。
こうなると色々な車のホイールベースが気になって調べてしまいます。トヨタ・センチュリー3025mm、マセラーティ・クアットロポルテ3064mm、FD型ホンダ・シビック2700mm、EG型2620mm、トヨタ・80スープラ2550mm、マツダ・3代目アテンザ2830mm、ポルシェ991型9112450mmなど、とても面白く感じます。の数値に乗車位置を確認すればより多くの事がわかります。(数値は全てウィキペディ)
自身で乗っていたEGシビックの方が、80スープラよりも長いのは面白いところです。二輪車の考え方を基本に持つ私には、トレッドが気にならなかったのですが、ここにきて興味を持つようになりました。ロールについても左右の中心に座れば、かなり感覚は違うのかも知れません。そのうち後席で試してみます。
乗り心地をとは何か
最近は二輪、四輪を問わずに乗り心地とは何かを考えて居ました。
今朝の通勤時も制動時の車両の動きを観察しながら、ふと考え付いたのは「乗り心地が良いとは、つまり何にも起こらない」事ではないかという点です。
要約すれば、車酔いや不快感は、車両の運動が体に伝わるので起こる現象だと考えます。ただ座っているだけならば「乗り心地」でなく「座り心地」になります。ならば運動を最小にしようと考え、サスペンションを硬め運動量を少なくすれば衝撃が大きくなり、衝撃を逃がそうとすれば運動量が大きくなるという、相反が生じます。
その解決策として「運動を感じさせない」ことを目的として、車体パッケージをまとめる努力をしています。しかし、「運動を感じさせない」は「運動を伝えない、わからない」ではありません。動きはわかる(理解)が体が感じない。これを目標にします。当然この表現は矛盾なのですが、しっかり造り上げた車両ならば、その矛盾を飲み込む事は可能です。
次回はホイールベースと着座位置についての考察を述べます。
写真は昔乗っていたトヨタのAltezzaです。イタリア好きの私には丁度良い名前です。アルテッツァはイタリア語で「高さ」の意味です。6気筒の6MTでしたが、好みではありませんでした。希望を言えばNAの4気筒で5MTならもっと楽しそうです。6気筒の静粛性を求めた、大人のセダンというコンセプトからは外れますが。
フロントフォーク作業工賃改定
四月一日から、フロントフォークの作業工賃を改定致します。
完全分解オーバーホールは、¥53,000となります。内容はカートリッジを分解し超音波洗浄機に掛け、伸び、圧のシムを一枚一枚専用ペーパータオルで磨き、部品設定のある品は出来る限り交換致します。
シールなどの部品交換を主とした作業は、旧来と変わらず¥30,000(税込み)です。
なぜ価格が高くなるのかについての説明ですが、上記サービスを始めた頃と比較して、機械を導入し作業の質が向上した点、交換部品が増えつつある点、作業練度の向上により品質が高まった点にあります。販売店のお客様が評価して下さったのですが「自店でもオーバーホールを行うが、セイクレッドグランドで作業したサスペンションは動きが明らかに違った」との事です。ぜひこのオーバーホールを体感して頂きたいと思います。
サスペンションは単体で完結しません。車両をお持ち下されば、前後サスペンションとタイアや使い方に合わせたパッケージングを提案致します。より上質で楽しいバイクライフを提供してゆきたいと考えています。
早速、仕様変更
先週納品したR25用のFFX31(オーリンズで言うところのTTx)が筑波サーキットでテスト走行を行い、問題個所を洗い出し、早速仕様変更に戻ってきました。
自由長とバネ定数は実績のある数字をそのまま引き継いだおかげで、純粋にダンパーの問題に焦点を絞ることができました。具体的には圧減衰が強すぎるので、先ずはそれを適正値にしてからテストを続ける運びとなりました。
実車があれば取り付け、手押しとまたがった感触でかなりの部分を判断できるのですが、今回は先方のメカニックの方の感触だけが頼りです。ですが、昨年FQTのセットアップをお願いしていた方なので、こちらはその方を信じ言葉通りに仕上げます。それもまた良い経験になると思います。
4月の全日本はテストも不足しているのでFQTで走るようですが、準備を行い急遽FFXを使うことになっても現場対応可能なように、何とか時間を取りたいと考えています。前述のホース連結型のFQTは、改善加工が功を奏して、かなり望み通りの動きをするようになったようです。
菅生のレース
日曜日に行われた菅生選手権の手伝いで、当社大槻が菅生へ行ってきました。
桜井選手は昨年はほぼ休みのような状況で、車体からのインフォメーションも十分に感じ取れていないようでしたが、今回の菅生からは徐々に以前の感覚を取り戻した感があるようです。
大槻からの報告では、彼が言うべきは言い為すべきことは為したようなので、あとはライダー本人が結果を出すしか無いようです。
ずいぶん前にアニメの監督を数多く担当した、押井守さんの本を読んだ時に印象深い言葉がありました。彼曰く、一般に若い時の失敗は許され、年を取った失敗は取り返しがつかないと言われるが、実際は逆で、年を取った時の失敗は立場や経験で誤魔化しが効くが、若い時分では後ろ盾もなく、将来に大きく響くと書かれていました。
逆もまた真なり。状況次第でどちらも正しいと思いますが、若いから取り返しが効くとのんびりしていると、いつの間にか年を重ねている物です。自分自身も肝に銘じて、日々の仕事を進めたいと思います。しかし、このような感覚は実際に時間を掛けて手にした感覚なので、そのまま若い人には伝わらないと感じています。そういう物を肌感覚で若い時から理解している人を、早熟と呼ぶのかと考える今日この頃です。
しかし、レースは走る人、助ける人、見る人ともに楽しいようです。
写真は56デザインスポルトの担当川野さんと、当社大槻です。